人がこの世に生きていく弾みになるもろもろの感情の中には、ひとりでも多くの人に自分を何らかの形で記憶されたいという願望がひそんではしないだろうか。旅先の樹や壁に自分の名を彫りつけたがる人の習性を、小児性とばかりは笑えない。